2022年8月5日 9:00 am

夏真盛りですが、コロナの再流行により街中は自粛ムードです。

夏は街に活気が出て欲しいものですが、寂しい限りです。

名古屋市名東区、牧会計事務所の佐藤です。

 

早期の退職を意味する、FIRE(Financial Independence, Retire Early)という言葉が話題になって久しいですが、

完全に仕事をリタイアする訳では無く、海外に居住地を移しながら自分のペースで活動をする有名人・資産家の方が増えてきています。

これらの方の人気居住地は、税金が非常に安い国々が多くを占めます。

特に、相続税が無料の国(シンガポール、マレーシア、オーストラリア、カナダ、香港等)は人気です。

 

相続税、贈与税は日本では最高55%の税率がかかります。これが全くの無税になるのであれば、資産家の方が海外移住を進めるのも納得です。

しかし、相続・生前贈与対策のために海外移住をするのであれば、多くの条件を満たすことが必要になります。

 

税務署による、海外居住者の相続・生前贈与の対策が進んだのは、平成23年に最高裁判決が出された、「武富士事件」によるものと言われています。

 

武富士事件とは、

消費者金融、武富士の創業者夫婦が長男に対して、外国会社の出資持分を譲渡したのですが、

長男の方は贈与税が無い香港の居住なので、当時の租税特別措置法の規定からすると、贈与税の納税義務がないとして、贈与税の申告をしていなかったというものです。
これが税務署に見つかり、杉並税務署から、合計約1330億円の課税処分(贈与税賦課決定処分と無申告加算税賦課決定処分)を受けました。

長男は取り急ぎ課税処分額全額を納税した上で裁判をおこないました。

 

当時の相続税法の規定によると、受贈者(長男)の住所が国内に無ければ、税金はかかりません。日本に住所がないとなると、課税要件を満たさなくなります。

当然、納税者(長男)は住所地が香港であると主張し、税務署は住所地が国内であると主張しました。

結果的には、納税者は高裁で敗訴しましたが、最高裁で逆転勝訴し、勝訴判決が確定しています。

 

そもそも、「住所」とはなんでしょうか?

相続税法では「住所」とは何か、ということについて、何ら定義がありません。

この点について、納税者が敗訴した高裁と、納税者が勝訴した最高裁とで意見が異なった判断がされています。

 

<住所とは>

高裁 : 客観的事実と、客観的に見た本人の居住意思 を総合判断

最高裁: 客観的事実 を総合判断

 

高裁は、

長男が日本と香港を行ったり来たりしている事から、客観的にみて本人の居住意思は日本であると判断しました。

なんとも都合の良い解釈です。

最高裁では、年間で滞在している日数等、事実のみを客観的に判断して、住所は香港であるとしました。

最高裁で納税者の勝訴が確定したことで、納税者には既に支払済みの課税処分を受けた税額のほか、その税額の納付時から還付時までの間の還付加算金として約400億円が追加で返ってきました

 

この裁判例でわかる通り、住所とは、年間で最も滞在している所であったり、生活の本拠地として客観的に判断できる場所である事が条件になります。

 

さて表題の件に戻りますが、

海外に住所があれば、相続税は安くなるのでしょうか。

結論から言いますと、安くすることは非常に難しいです。

 

これらの点、詳細は次回に解説させていただきます。

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